Exchange ServerとOutlookのTNEF（Transport Neutral Encapsulation）プロトコルのデコード処理（データ変換処理）に脆弱性が存在する。これによりOutlookで細工されたTNEFメッセージを開くか、プレビュー表示を行うだけで、任意のコードが実行されてしまう。またExchange Serverでは、細工されたメッセージを受信したあと、Outlookなどに配信処理する際に、この脆弱性が悪用され、任意のコードが実行される危険性がある。

　マイクロソフトによれば、MS06-003の脆弱性は非公開で報告されたとしており、実証コードや攻撃例は現時点では確認されていないという。ただし、修正プログラムが公開されたことから、詳細な報告書や実証コードが公開される可能性もある。最近では実証コードが公開されると、数日内に悪用される傾向にある。メール添付型ウイルスに悪用された場合、大規模な被害が発生することが懸念される。

　またExchange Serverが乗っ取られ、保存されている電子メールなどの情報が漏えいする危険もある。特にExchange Serverでは、ユーザー操作の有無とは無関係に脆弱性が攻撃される危険があり、悪用された場合の被害は甚大である。対象となるExchange 5.0／5.5／2000（Exchange Server 2003は影響を受けない）を利用している場合には、修正プログラムの適用など、至急に対策を施す必要がある。

　Exchange Serverに修正プログラムを適用するには、サービスの一時中断が不可避である。適用によって、万一不具合が発生した場合、ユーザーに与える影響も大きい。しかし攻撃被害のリスクは極めて大きいので、サービス停止や多少の不具合発生リスクは覚悟の上で対策に臨む必要がある脆弱性だ。

　OutlookとExchange ServerがTNEFプロトコルでメッセージ・データをデコード処理する過程にバッファ・オーバーフローの脆弱性が存在する。TNEFは、リッチ・テキスト形式（RTF）でフォーマットされたメッセージが送信されるときに、Exchange ServerやOutlookによって使用されるプロトコルである。例えばTNEFプロトコルは、Outlook 2003の会議ワークスペースにおいて、「Outlook会議出席依頼」などの送信時に利用されている。

　特にExchange Serverでは、細工されたメッセージの受信をブロックすることが難しいことから危険性は高い。Exchange Serverでは、細工されたメッセージを受信した後、Outlookからそのメッセージの取得が行われると、自動的にTNEFブロックでエンコードが行われ、任意のコードが実行されてしまう。これまでメール添付型ウイルスは、クライアントをターゲットとしていたが、今後はこの脆弱性を悪用し、Exchange Serverを狙ったものが出現することが懸念される。Exchange Serverで脆弱性が悪用された場合、コンピュータの制御が完全に奪われる可能性があるため、保存されている電子メールや住所録などの情報が漏えいする危険もある。

■適用テストの結果
　DA Labでは、以下のプラットフォームで修正プログラムの適用テストを行った。

■Exchange 2000 ServerはSP3と「更新プログラムのロールアップ」のインストールが必要
　MS06-003の修正プログラムをExchange 2000 Serverに適用するには、事前にExchange 2000 Server Service Pack 3と2004年8月に公開された「Exchange 2000 用 更新プログラムのロールアップ (KB870540)」を事前にインストールしておく必要がある。

・サポート技術情報 870540（2004 年 8 月公開の Exchange 2000 Server Service Pack 3 以降の更新プログラムのロールアップ）：
http://support.microsoft.com/default.aspx?scid=kb;ja;870540

・ダウンロード・センター（Exchange 2000 用 更新プログラムのロールアップ (KB870540)）：
http://www.microsoft.com/downloads/details.aspx?
FamilyId=363a57a4-8bed-4bbb-bbe4-abc11ab04611&displaylang=ja

■Exchange Server向け修正プログラムを適用すると一部のサービスが再起動される
　Exchange Server向け修正プログラムは、その適用中に関連サービスを自動で再起動する。DA Labのテスト環境では、以下のサービスが再起動されたことを確認した。

• Microsoft Exchange Information Store
• Microsoft Exchange MTA Stacks（Exchange 2000 Serverのみ）
• Microsoft Exchange System Attendant

　Exchange 2000 Serverの場合、IISやSMTP、NNTPもサービスの再起動などの影響を受けることがあるとのことだ。

■Exchange Server 5.0／5.5はサポート・ライフサイクルが終了
　Exchange Server 5.0／5.5は、2005年12月31日付けでサポート・ライフサイクルの延長フェイズが終了している。しかしマイクロソフトによれば、修正プログラムの準備がほとんど終了していたため、今回は提供を行ったとしている。今後は修正プログラムが提供されなくなるので、これらのユーザーは、Exchange Server 2003などへの移行を検討しなければならない。

■MultiLanguage Packがインストールされている環境では修正プログラムが異なる
　MS06-003のOutlook向け修正プログラムでは、日本語版とMulti Language Pack（Office 2000）またはMultilingual User Interface Pack（Office XP／2003）、Language Interface Pack（Office 2003）がインストールされた環境用に、それぞれ異なるパッケージが提供されているので注意が必要だ。

　なおMultiLanguage Pack（Office 2000）またはMultilingual User Interface Pack（Office XP／2003）は、多国語版Officeにインストールすることで、Officeアプリケーションを多くの言語に対応させるアドオンである。Language Interface Packはローカライズされていない地域のために開発されたアドオンで、頻繁に使用される機能をそのユーザーの母国語で表示する機能を提供する。特に外資系企業では、多言語版を利用していることがあるので注意が必要だ。

■MBSA 2.0の結果
　修正プログラムが正しく適用されているかどうかは、MBSA 2.0で確認可能だ。未適用の場合は、「Officeのセキュリティの更新」の「結果の詳細情報」に「Outlook ｛2000／2002／2003｝ 用セキュリティ更新プログラム (KB892843)」または「Exchange Serverのセキュリティの更新」の「結果の詳細情報」に「Exchange 2000 Server 用セキュリティ更新プログラム (KB892843)」が表示される。なおMBSA 2.0は、Exchange 5.0とExchange Server 5.5をサポートしていない。

　ただしExchange 5.0とExchange Server 5.5は、MBSA 1.21で確認できる。未適用の場合は、「Exchange Serverのセキュリティの更新」の「結果の詳細情報」に、「Microsoft Outlook および Microsoft Exchange の TNEF デコードの脆弱性により、リモートでコードが実行される (902412)」が表示される。

　以下のファイルにパッチが適用される。障害の発生が懸念される場合は、これらのファイルのバックアップを取っておくとよい。

　修正プログラムが正しく適用できたかどうかは、以下のレジストリ・キーにある値あるいはファイルのバージョンを調べることで確認できる。

・Outlook 2000（Office 2000 SP3）：
置き換わるファイルのバージョンを確認する

・Outlook 2002（Office XP SP3）：
置き換わるファイルのバージョンを確認する

・Outlook 2003（Office 2003 SP1／SP2）：
置き換わるファイルのバージョンを確認する

・Exchange Server 5.0 SP2：
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Updates\Exchange Server 5.0\SP3\894689\Filelist以下のファイル一覧を確認する

・Exchange Server 5.5 SP4：
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Updates\Exchange Server 5.5\SP5\894689\Filelist以下のファイル一覧を確認する

・Exchange 2000 Server SP3：
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Updates\Exchange Server 2000\SP4\KB894689\Filelist以下のファイル一覧を確認する

・Outlook 2000（Office 2000 SP3）：
［展開ビュー］−［Outlook］タブに「名前：office2000-kb892842-fullfile-jpn.exe」で登録

・Outlook 2002（Office XP SP3）：
［展開ビュー］−［Outlook］タブに「名前：officexp-KB892841-FullFile-JPN.exe」で登録

・Outlook 2003（Office 2003 SP1／SP2）：
UpdateEXPERT 5.1：サポート対象外
UpdateEXPERT 6.1：［展開ビュー］−［Outlook］タブに「名前：office2003-KB892843-FullFile-JPN.exe」で登録

・Exchange Server 5.0 SP2：
サポート対象外

・Exchange Server 5.5 SP4：
［展開ビュー］−［Exchange］タブに「名前：Exchange5.5-KB894689-x86-jpn.EXE」で登録

・Exchange 2000 Server SP3：
［展開ビュー］−［Exchange］タブに「名前：Exchange2000-KB894689-x86-JPN.exe」で登録