新たに報告されたOfficeの6種類の脆弱性により、リモートで任意のコードが実行される危険性がある。細工されたOffice文書を開くと、メモリ内容が破壊され、任意のコードが実行される。今回報告された6種類の脆弱性のうち、5種類がExcelに関するものだ。またOffice 2000は、すべての脆弱性が「1（緊急）」となっており、特に危険性が高い。

　攻撃は、細工されたOffice文書を開くことで実行される。Office文書をWebサイトに置いたり、電子メールに添付したりして、ユーザーにそれを開かせるように誘導する。Internet Explorer（IE）は、Office文書をインライン（IEのウィンドウ内部）で開くため、Officeを明示的に使っていなくても、IEによるWebページ・ブラジング作業中に攻撃が実行される可能性もあるので注意が必要だ。またメール添付型ウイルスに悪用される危険性も高い。

　すでに一部の脆弱性については実証コードが公開されている。これらの実証コードが攻撃に悪用されることが懸念される。至急、修正プログラムを適用した方がよい。

　MS06-012の修正プログラムは、以下の6種類の脆弱性を解消する。

■不正な形式の設定が使用され、Microsoft Office Excelでリモート・コードが実行される脆弱性（深刻度：緊急　CVE：CAN-2005-4131）
　脆弱性情報がeBayでオークション販売されたことから「Excel eBayの脆弱性」とも呼ばれている（その後、MicrosoftとeBayの話し合いにより、オークションでの出品は取り下げられた）。eBayで「脆弱性が売られた」ことから、各メディアが取り上げ、非常に有名なものとなっている。

　msvcrt.memmove()関数にスタック・ベース・バッファのオーバーフローの脆弱性が存在し、xlsファイル内のデータフィールドからmsvcrt.memmove()関数に巨大な値を渡すとメモリが破壊され、任意のコードが実行される危険性がある。細工されたExcel文書を開くだけで、文書に仕込まれたコードが実行される。見積書などを偽装された電子メール添付型ウイルスに悪用されることが懸念される。

　脆弱性の対象は、Excel 2000／2002／2003、Excel Viewer 2003である。

　マイクロソフトによれば、この脆弱性は一般に情報が公開されていたものの、攻撃例は報告されていないという。しかし前述のように有名な脆弱性となっているため、修正プログラムが公開されたことで実証コードや攻撃コードが公開される危険性が高い。

■Microsoft Office Excelで、不正なファイル・フォーマットの解析を使用してリモート・コードが実行される脆弱性（深刻度：緊急　CVE：CAN-2006-0028）
　BIFFファイル・フォーマット（Excelで使用されているバイナリ・ファイルのフォーマット）のBOOLERRレコードに異常な値が設定されていると、ファイル・フォーマットの解析過程でメモリ破壊が起きる。細工されたExcel文書を開くだけで、文書に仕込まれたコードが実行される。そのため電子メール添付型ウイルスに悪用されることが懸念される。

　脆弱性の対象は、Excel 2000／2002／2003、Excel Viewer 2003である。

　マイクロソフトによれば、この脆弱性は非公開で報告されたとしており、実証コードや攻撃例は確認されていないという。ただし、修正プログラムがリリースされたことから、詳細な技術情報や実証コードが公開される可能性がある。

■Microsoft Office Excelで、不正な形式の記述によりリモート・コードが実行される脆弱性（深刻度：緊急　CVE：CAN-2006-0029）
　不正な形式の記述を用いて細工されたExcelファイルを開くと、メモリ破壊が起きる。細工されたExcel文書を開くだけで、文書に仕込まれたコードが実行される。そのため電子メール添付型ウイルスに悪用されることが懸念される。

　脆弱性の対象は、Excel 2000／2002／2003、Excel Viewer 2003である。

　マイクロソフトによれば、この脆弱性は非公開で報告されたとしており、実証コードや攻撃例は確認されていないという。ただし、修正プログラムがリリースされたことから、詳細な技術情報や実証コードが公開される可能性がある。

■Microsoft Office Excelで、不正なグラフィックを使用してリモート・コードが実行される脆弱性（深刻度：緊急　CVE：CAN-2006-0030）
　不正なグラフィックを用いて細工されたExcelファイルを開くと、メモリ破壊が起きる。細工されたExcel文書を開くだけで、文書に仕込まれたコードが実行される。そのため電子メール添付型ウイルスに悪用されることが懸念される。

　脆弱性の対象は、Excel 2000／2002／2003、Excel Viewer 2003である。

　マイクロソフトによれば、この脆弱性は一般に情報が公開されていたものの、攻撃例は報告されていないという。しかし前述のように有名な脆弱性となっているため、修正プログラムが公開されたことで実証コードや攻撃コードが公開される危険性が高い。

■Microsoft Office Excelで、不正な形式のレコードを使用してリモート・コードが実行される脆弱性（深刻度：緊急　CVE：CAN-2006-0031）
　不正なレコードを用いて細工されたExcelファイルを開くと、メモリ破壊が起きる。細工されたExcel文書を開くだけで、文書に仕込まれたコードが実行される。そのため電子メール添付型ウイルスに悪用されることが懸念される。

　脆弱性の対象は、Excel 2000／2002／2003、Excel Viewer 2003である。

　マイクロソフトによれば、この脆弱性は非公開で報告されたとしており、実証コードや攻撃例は確認されていないという。ただし、修正プログラムがリリースされたことから、詳細な技術情報や実証コードが公開される可能性がある。

■Microsoft Officeで、不正な形式の回覧先を使用してリモート・コードが実行される脆弱性（深刻度：緊急　CVE：CAN-2006-0009）
　Officeの「回覧先」機能にメモリ破壊を起こす脆弱性が存在する。「回覧先」は、Office（Word／Excel／PowerPoint）の［ファイル］−［送信］−［回覧先］で設定可能なグループ内で情報のワークフローを実現する機能である。［回覧先］に複数の電子メール・アドレスを設定すると、その順番にOffice文書を回覧できるようになる。また同時に複数の電子メール・アドレスにOffice文書を送信することも可能だ。この回覧先機能に脆弱性が存在し、細工をした回覧先が設定されたOffice文書を開くと、任意のコードが実行される。

　脆弱性の対象は、Office 2000（Word 2000／Excel 2000／Outlook 2000／PowerPoint 2000）、Office XP（Word 2002／Excel 2002／Outlook 2002／PowerPoint 2002）、Excel 2003、Excel Viewer 2003である。修正プログラムは、インストールされているこれらのOfficeコンポーネントに対して個別に適用する必要がある。

　マイクロソフトによれば、この脆弱性は非公開で報告されたとしており、実証コードや攻撃例は確認されていないという。ただし、修正プログラムがリリースされたことから、詳細な技術情報や実証コードが公開される可能性がある。

■適用テストの結果
　DA Labでは、以下のプラットフォームで修正プログラムの適用テストを行った。

■インストールされているOfficeコンポーネントごとに修正プログラムの適用が必要
　Office 2000とOffice XPでは、Word／Excel／PowerPoint／Outlookのコンポーネントごとに修正プログラムが提供されている。インストールされているコンポーネントに対応したすべての修正プログラムを適用しないと、脆弱性が解消されないので注意が必要だ。つまり、すべてのコンポーネントをインストールしている環境では、4種類の修正プログラムを適用する必要がある。

■MS06-010の修正プログラムは含まれない
　MS06-012の修正プログラムは、PowerPoint 2000向けにも提供されているが、2月15日にリリースされたMS06-010の修正は含まれていないので注意が必要だ。3月16日時点のTechNetセキュリティ情報では、MS06-010がMS06-012で「置き換わる」とされているが、誤りである。同じPowerPoint 2000向けの修正プログラムだが、MS06-010とMS06-012では置き換わるファイルが異なっているので、MS06-012にMS06-010は含まれていない。MS06-010の修正プログラムを適用していない場合は、MS06-012とともに別途適用する必要がある。

■Outlook 2002向け修正プログラムはMS06-003の修正プログラムと誤認しやすい
　MS06-012のOutlook 2002向け修正プログラムは、MS06-003のOutlook 2002向け修正プログラムを含んでいる。MS06-003に対してMS06-012の修正プログラムで更新されたのは、CONTAB32.DLLとMSPST32.DLLというDLLファイルだけだ。しかしこれらのファイルは、Outlook 2002のセットアップで以下のコンポーネントを組み込んだ場合のみ、インストールされる。

・CONTAB32.DLL：「Outlook メッセージング コンポーネント」−「Outlook Mapi サービス」−「Outlook アドレス帳」
・MSPST32.DLL：「Outlook メッセージング コンポーネント」−「Outlook Mapi サービス」−「個人用フォルダ」

　これらのコンポーネントを組み込んでいないと、MS06-003とMS06-012それぞれのOutlook 2002向け修正プログラムのどちらが適用されているか、DLLファイルでは判別できないので注意が必要だ。

■アンインストールに必要な条件
　Office 2000（Word 2000／Excel 2000／Outlook 2000／PowerPoint 2000）の修正プログラムはアンインストールできない。一方、Office XP（Word 2002／Excel 2002／Outlook 2002／PowerPoint 2002）とExcel 2003の修正プログラムは、以下の条件を満たせばアンインストールできるとのことだ。

• OSがWindows XP SP2またはWindows Server 2003 SP1
• Windows Installer 3.0以降をインストールした後で修正プログラムを適用
• OfficeのインストールCDにアクセス可能

■Windows 98／98SE／MeではWindows Installer 2.0が必要
　Windows 98／98SE／Me＋Office 2000／XP／2003の環境に、MS06-012の修正プログラムを適用する場合には、事前にWindows Installer 2.0をインストールしておく必要がある。Windows 2000 SP3以降のOS（Windows XP、Windows Server 2003を含む）には、Windows Installer 2.0以降が含まれているので、事前にWindows Installer 2.0をインストールする必要はない。

・ダウンロード・センター（Windows Installer 2.0 Redistributable for Windows 95, 98, and Me）：
http://www.microsoft.com/downloads/details.aspx?&
FamilyID=CEBBACD8-C094-4255-B702-DE3BB768148F&displaylang=en

■MBSA 2.0の結果
　Office 2000以外は、修正プログラムが正しく適用されているかどうかをMBSA 2.0で確認できる（MBSA 2.0は、Office 2000をサポートしていない）。未適用の場合は、「Office のセキュリティ更新プログラム」の「結果の詳細情報」にインストールされているOfficeのコンポーネントによって以下が表示される。

• Excel 2002 セキュリティ更新プログラム: KB905755
• Outlook 2002 セキュリティ更新プログラム: KB905649
• PowerPoint 2002 セキュリティ更新プログラム: KB905758
• Word 2002 セキュリティ更新プログラム: KB905754
• Excel 2003 セキュリティ更新プログラム: KB905756

　参考までにMBSA 1.21では「Office のアップデート」の「結果の詳細情報」にインストールされているOfficeのコンポーネントによって以下が表示される。

• Excel 2000 セキュリティ更新プログラム: KB905757
• Outlook 2000 セキュリティ更新プログラム: KB905646 (日本語版)
• PowerPoint 2000 セキュリティ更新プログラム: KB905555 (日本語版)
• Word 2000 セキュリティ更新プログラム: KB905553
• Excel 2002 セキュリティ更新プログラム: KB905755
• Outlook 2002 セキュリティ更新プログラム: KB905649
• PowerPoint 2002 セキュリティ更新プログラム: KB905758
• Word 2002 セキュリティ更新プログラム: KB905754
• Excel 2003 セキュリティ更新プログラム: KB905756

　修正プログラムが正しく適用できたかどうかは、置き換わるファイルのバージョンをプロパティで調べることで確認できる。

・Word 2000（Office 2000 SP3）：
［展開ビュー］−［Office］タブに「名前：office2000-kb905553-fullfile-jpn.exe」で登録

・Excel 2000（Office 2000 SP3）：
［展開ビュー］−［Office］タブに「名前：office2000-kb905757-fullfile-jpn.exe」で登録

・Outlook 2000（Office 2000 SP3）：
［展開ビュー］−［Outlook］タブに「名前：office2000-kb905646-fullfile-jpn.exe」で登録

・PowerPoint 2000（Office 2000 SP3）：
［展開ビュー］−［Office］タブに「名前：office2000-kb905555-fullfile-jpn.exe」で登録

・Word 2002（Office XPSP3）：
［展開ビュー］−［Office］タブに「名前：officexp-KB905754-FullFile-JPN.exe」で登録

・Excel 2002（Office XP SP3）：
［展開ビュー］−［Office］タブに「名前：officexp-KB905755-FullFile-JPN.exe」で登録

・Outlook 2002（Office XP SP3）：
［展開ビュー］−［Outlook］タブに「名前：officexp-KB905649-FullFile-JPN.exe」で登録

・PowerPoint 2002（Office XP SP3）：
［展開ビュー］−［Office］タブに「名前：officexp-KB905758-FullFile-JPN.exe」で登録

・Excel 2003（Office 2003 SP1／SP2）：
［展開ビュー］−［Office］タブに「名前：office2003-KB905756-FullFile-JPN.exe」で登録