オブジェクト処理のメモリ破損の脆弱性など、Internet Explorer（IE）に対する5種類の脆弱性が公表された。すべてリモートで任意のコードが実行される危険性を持つ脆弱性なので注意が必要だ。細工されたWebページを開くと、ユーザーの操作なしに任意のコードが実行される危険性がある。

　IEに対しては、現在非常に多くの脆弱性が報告されており、MS07-027の修正プログラムを適用しても、報告済みのすべての脆弱性は解消されない（詳細後述）。修正プログラムを至急適用し、脆弱性を解消するのはもちろんのこと、引き続き、IEの運用には注意する必要がある。

　MS07-027の修正プログラムは、以下の5件の脆弱性を解消する。

■COMオブジェクトのインスタンス化のメモリ破損の脆弱性（深刻度：緊急　CVE：CVE-2007-0942）
　本来はIEを介してアクセスされるように設計されていない非ActiveXコントロール（COMオブジェクトなど）のインスタンスが、IE経由で作成できてしまうことに起因する脆弱性である。MS07-027では「chtskdic.dll」のCOMオブジェクトが脆弱性の原因となっている。

　これら脆弱性の悪用を防止する対策の1つとして、2005年7月の月例修正として公開されたMS05-037では、当時すでに実証コードが公開されていたJViewプロファイラ（javaprxy.dll）のみkillbitを設定して無効化する対策が行われていた。その後、MS05-038／052／054、MS06-013／021／042、MS07-016の修正プログラムにおいても、複数のCOMオブジェクトに対してkillbit が設定されている。さらに今回のMS07-027でも、同様に危険性の高いCOMオブジェクトなどに対してkillbitが設定され、その悪用を防いでいる。

・HotFix Alert MS05-054（Internet ExplorerのDocument Object Modelオブジェクトを処理する方法などの脆弱性により、リモートで任意のコードが実行される危険性）：
http://www.hotfix.jp/archives/alert/2005/ms05-054.html

■初期化されていないメモリの破損の脆弱性（深刻度：緊急　CVE：CVE-2007-0944）
　IEが、初期化されていない、もしくはすでに削除されたオブジェクトにアクセスすることに起因するメモリ破損の脆弱性が存在する。細工されたWebページを開くと、ユーザーの操作なしに、任意のコードが実行される危険性がある。

　マイクロソフトによれば、この脆弱性は非公開で報告されたとしており、現時点では実証コードや攻撃例は確認されていないという。

　なおIE 7は、この脆弱性の影響を受けない。

■任意のファイルの書き換えの脆弱性（深刻度：緊急　CVE：CVE-2007-2221）
　インスタンス化が意図されていないメディア・サービス・コンポーネント（mdsauth.dll）に任意のファイルが書き換え可能となる脆弱性が存在する。細工されたWebページを開くと、ユーザーの操作なしに、任意のコードが実行される危険性がある。

　この脆弱性は、現在サポートしていないmdsauth.dllのCLSIDに対して、killbitを設定することで解消される。

　マイクロソフトによれば、この脆弱性は非公開で報告されたとしており、現時点では実証コードや攻撃例は確認されていないという。

■プロパティのメモリ破損の脆弱性（深刻度：緊急　CVE：CVE-2007-0945）
　IEがプロパティ・メソッドを呼び出す処理に、メモリ破損の脆弱性が存在する。細工されたWebページを開くと、ユーザーの操作なしに、任意のコードが実行される危険性がある。

　マイクロソフトによれば、この脆弱性は非公開で報告されたとしており、現時点では実証コードや攻撃例は確認されていないという。

　なおIE 5.01 SP4は、この脆弱性の影響を受けない。

■HTMLオブジェクトのメモリ破損の脆弱性（深刻度：重要　CVE：CVE-2007-0946／CVE-2007-0947）
　IEが、初期化されていないメモリにアクセスしてしまうことに起因する脆弱性が存在する。その結果、細工されたWebページを開くと、メモリ破損が起こり、任意のコードが実行される危険性がある。

　マイクロソフトによれば、この脆弱性は非公開で報告されたとしており、現時点では実証コードや攻撃例は確認されていないという。

　この脆弱性は、IE 7（Windows XP SP2、Windows Server 2003 SP1／R2／SP2、Windows Vista）のみに影響する。

■適用テストの結果
　DA Labでは、以下のプラットフォームで修正プログラムの適用テストを行った。

■MBSA 2.0の結果
　MS07-027の修正プログラムが正しく適用されているかどうかは、MBSA 2.0で確認可能だ。未適用の場合は、「Windowsのセキュリティの更新」の「結果の詳細情報」に、IEのバージョンによって以下のいずれかが表示される。

• Internet Explorer 5.01 Service Pack 4 用の累積的なセキュリティ更新プログラム (KB931768)
• Internet Explorer 6 Service Pack 1 用の累積的なセキュリティ更新プログラム (KB931768)
• Windows XP 用 Internet Explorer 6 の累積的なセキュリティ更新プログラム (KB931768)
• Windows XP 用 Internet Explorer 7 の累積的なセキュリティ更新プログラム (KB931768)
• Windows Server 2003 用 Internet Explorer 6 の累積的なセキュリティ更新プログラム (KB931768)
• Windows Server 2003 用 Internet Explorer 7 の累積的なセキュリティ更新プログラム (KB931768)
• Windows Vista 用 Internet Explorer 7 の累積的なセキュリティ更新プログラム (KB931768)

■Windows XP SP2、Windows Server 2003 SP1／R2／SP2＋IE 7向けの修正プログラムはMS07-016を完全に置き換えない
　TechNetセキュリティ情報によれば、MS07-027の修正プログラムはMS07-016を置き換えるものである。しかしDA Labで置き換わるファイルを調べたところ、Windows XP SP2、Windows Server 2003 SP1／R2／SP2＋IE 7向け修正プログラムでは、MS07-016の適用によって置き換わる「corpol.dll」が、MS07-027には含まれていないことが分かった。

　「corpol.dll」自体はオリジナルのIE 7から変更されている。だが本質的な変更ではなく、ファイルを置き換えなくても、問題が発生しない可能性もある。しかしファイル・バージョンだけでなくコード部分も更新されていることから、本質的な変更が加えられている可能性も否定できない。Windows XP SP2＋IE 7とWindows Server 2003 SP1／R2／SP2＋IE 7においては、まずMS07-016の修正プログラムを適用し、その後にMS07-027を適用することを推奨する。

■MS07-027の修正プログラムを適用しても解消されない脆弱性が複数存在する
　H.D.Moore氏は、同氏のBlog「Browser Fun」において、Webブラウザに関する脆弱性を2006年7月中に毎日報告するとし、IEに対する25件の脆弱性を公開した。これらの脆弱性のすべてで実証コードが公開され、容易に脆弱性の有無が確認可能となっていた。

　Browser Funで公開された脆弱性のうち、MS06-067までの修正プログラムで7件の脆弱性が解消されている。その後に公開されたIEの修正プログラムであるM06-072とMS07-016では、残りの脆弱性が解消されることはなかった。残念ながら、MS07-027でも新たに解消されたものはない。つまりMS07-027の修正プログラムを適用しても、IEには未だに多くの脆弱性が残ることになる。IEの運用には、引き続き十分な注意が必要だ。

■複数のCOMオブジェクトにkillbitを設定
　MS07-027の修正プログラムでは、新たにchtskdic.dllとmdsauth.dllのCLSIDに対してkillbitを設定する。

　またAcer IncorporatedとResearch In Motion（RIM）が提供しているActiveXコントロールに対してもkillbitを設定している。

■MS07-027の修正プログラム適用による既知の不具合
　MS07-027の修正プログラムを適用すると、「IEでモニカの使用がサポートされなくなる」という不具合が発生することが明らかになっている。適用前に確認し、業務に支障が生じないことを確認した方がよい。

・サポート技術情報 906294（累積的なセキュリティ更新プログラム 896727 (MS05-038) によって提供されるセキュリティ更新プログラムをインストール後、Internet Explorer でモニカの使用がサポートされない）：
http://support.microsoft.com/default.aspx?scid=kb;ja;906294

■MS07-027のIE 6 SP1向けはロールアップ修正プログラムが自動判別で適用される
　MS07-027のIE 6 SP1向け修正プログラムでは、過去のIEの累積的な修正プログラムと同様、セキュリティ修正プログラムとロールアップ修正プログラムが統合されており、自動的にロールアップ修正プログラム相当（修正プログラム内の「RTMQFE」フォルダ側のファイル）が適用される。なお、 MS07-027においては、MS04-038より前に提供された修正プログラムは、ロールアップ修正プログラム相当でなくても含まれている。

■MS07-027の修正プログラムには複数の不具合修正が含まれる
　MS07-027の修正プログラムには、以下の不具合修正が含まれている。MS07-027の修正プログラムを適用することで、これらの不具合が解消する可能性がある。

■サポート終了に伴いWindows Server 2003 SP未適用向けは提供されない
　マイクロソフトのサポート・ライフサイクルの規定に従い、Windows Server 2003 SP未適用（RTM）のサポートが、2007年4月10日で終了している。そのため、MS07-027の修正プログラムも、Windows Server 2003 SP未適用＋IE 6向けは提供されていない。サービスパック1もしくは2をインストールした上で、MS07-027の修正プログラムの適用が必要になる。

・HotFix Weekly 2007/04/18日付け（Windows Server 2003 SP未適用のサポートが終了）：
http://www.hotfix.jp/archives/alert/2007/news07-0418.html#04

　修正プログラムが正しく適用できたかどうかは、以下のレジストリ・キーにある値を調べることで確認できる。

・Windows 2000 SP4＋IE 5.01 SP4：
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Updates\Internet Explorer 5.01\SP4\KB931768-IE501SP4-20070219.120000\Filelist以下のファイル一覧を確認する

・Windows 2000 SP4＋IE 6 SP1：
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Updates\Internet Explorer 6\SP1\KB931768-IE6SP1-20070219.120000\Filelist以下のファイル一覧を確認する

・Windows XP SP2＋IE 6：
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Updates\Windows XP\SP3\KB931768\Filelist以下のファイル一覧を確認する

・Windows XP SP2＋IE 7：
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Updates\Windows XP\SP0\KB931768-IE7\Filelist以下のファイル一覧を確認する

・Windows Server 2003 SP1／R2／SP2＋IE 6：
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Updates\Windows Server 2003\SP3\KB931768\Filelist以下のファイル一覧を確認する

・Windows Server 2003 SP1／R2／SP2＋IE 7：
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Updates\Windows Server 2003\SP0\KB931768-IE7\Filelist以下のファイル一覧を確認する

・Internet Explorer 7（Windows Vista）：
置き換わるファイルのバージョンで確認する

・Windows 2000 SP4＋IE 5.01 SP4：
［展開ビュー］−［IE］タブに「名前：IE5.01sp4-KB931768-Windows2000sp4-x86-JPN.exe」で登録

・Windows 2000 SP4＋IE 6 SP1：
［展開ビュー］−［IE］タブに「名前：IE6.0sp1-KB931768-Windows2000-x86-JPN.exe」で登録

・Windows XP SP2＋IE 6：
［展開ビュー］−［IE］タブに「名前：WindowsXP-KB931768-x86-JPN.exe」で登録

・Windows XP SP2＋IE 7：
［展開ビュー］−［IE］タブに「名前：IE7-WindowsXP-KB931768-x86-jpn.exe」で登録

・Windows Server 2003 SP1／R2／SP2＋IE 6：
［展開ビュー］−［IE］タブに「名前：WindowsServer2003-KB931768-x86-JPN.exe」で登録

・Windows Server 2003 SP1／R2／SP2＋IE 7：
［展開ビュー］−［IE］タブに「名前：IE7-WindowsServer2003-KB931768-x86-jpn.exe」で登録

・Internet Explorer 7（Windows Vista）：
現在のところサポート対象外